難治骨折診の特徴
難治骨折診では、骨折が治らずお困りの患者さんを専門的に治療しています。骨折はほとんどの場合、怪我をしてから3ヶ月から半年位までに骨がくっついて治ります。しかし、骨折の5%は、きちっと治療をしたにもかかわらず治らないと報告されています。このように骨折が治らない状態は、「偽関節」・「遷延治癒」あるいは「難治骨折」と呼ばれます。また、骨折の手術をしたところに細菌が感染して骨髄炎を起こし、その結果、骨がくっつかないという場合もあり、「感染性偽関節」と呼ばれます。これらの治りにくい骨折、「難治骨折」の治療には専門的な知識が求められ、通常の骨折治療の経験が豊富な医師でも対応がなかなか難しく、何度も手術が必要になる場合も少なくありません。難治骨折診では、これまでに数多くの難治骨折の治療に携わった医師が、専門的な知識・最先端の治療戦略を持って治療にあたっています。また、難治骨折を早く治すために、確実に治すために、次世代の骨折治療につながる骨再生医療の研究をこれまでに行ってきました(https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000040533732/)。
骨折が治らずお困りの患者さん、骨折を早く治したい、骨折を確実に治したい患者さんは、昭和大学横浜市北部病院整形外科の「難治骨折診」を受診して下さい。
外来について
難治骨折診は第2木曜日午前(受付時間8:30から11:00)に予約制で診療を行っております。他医療機関・かかりつけ医より紹介状(診療情報提供書)をお持ちのうえ、受診してください。可能であれば、これまでに検査されたレントゲン・MRI・CTなどをお持ちいただけますと、より多くのご説明が可能となります。
なお、昭和大学病院附属東病院(東京都品川区旗の台)および昭和大学江東豊洲病院(江東区豊洲)の整形外科外来でも同じ担当医師が難治骨折診を行っております。昭和大学病院附属東病院(https://showa-u-orthopedic.com/specialty_areas/specialty_areas_12/)では第3金曜日の午後(受付時間14:00から16:00)に、昭和大学江東豊洲病院(http://www.showa-u.ac.jp/SHKT/department/list/surgery_center/orthoped/index.html)では毎週火曜の午前(受付時間8:30から11:00)にそれぞれ予約制で診療を行っています。
難治骨折診で対応可能な病態
● 骨折後なかなか骨がくっつかない「偽関節」、「骨折遷延治癒」
● 骨折後に骨に細菌感染を起こしてしまった「骨髄炎」
● これら両者を合併した「感染性偽関節」
● 骨折が変な形でくっついてしまい、機能障害の原因となっている変形治癒
● 外傷などが原因で骨がなくなって脚が短縮し、歩行障害をきたしている状態
主に、四肢(腕、脚)の大きな骨、大腿骨・脛骨・上腕骨・前腕骨・鎖骨・骨盤などを対象にしています。手首・手の難治骨折の場合、当科の手外科診にて対応します。
尚、海外や国内で自由診療で身長を伸ばす目的で行った脚延長術後の偽関節の治療は対応しておりません。
骨折治癒促進療法について
骨折すると痛みに苦しめられ、手や足を自由に動かせなくなります。骨が治らなければ、これらの症状がずっと続いてしまいます。骨折の標準的な治療は、手術で骨のずれを直し、固定することが原則(AO法)で、私たちもこれを治療の基本としています。私たちは、今ある最良の治療を患者さんに提供するとともに、さらに優れた治療法の確立を試みています。私たちが実施している3つの骨折治癒促進療法をご紹介します。下記に挙げる1~3の治療法は、これまでに数多くの患者さんへ使用している実績があり、優れた治療成績が得られております。
1.超音波骨折治療法
2.RIA (Reamer Irrigator Aspirator) systemを用いた新しい骨移植法
3.Masquelet法(マスケレ法・マスカレ法):骨欠損に対する新しい骨再生療法
● 1. 超音波骨折治療法
現在、保険適応(超音波骨折治療法・難治性超音波骨折治療法)のあるエビデンスの確立された骨折治癒促進法として、日本で最もよく使われている治療法です。当院では本法を積極的に使用しており、実施症例数・治療実績が豊富で、これまでに優れた治療成績を報告しています。また、超音波骨折治療に関する基礎研究も数多く行っており、エビデンスを積み重ねてきました。難治骨折の場合、適応があれば手術を行わずに超音波骨折治療のみを行い、その結果、手術を回避できることもあります。また、難治骨折の手術を行った患者さんでも、より早く確実に治るよう、手術後に超音波骨折治療を行うこともあります。
● 2. RIA (Reamer Irrigator Aspirator) システムを用いた新しい骨移植法
交通事故などで受傷した重症な骨折では大きな骨の欠損が生じる場合があり、また、難治性骨折・偽関節でも、大きな骨欠損が生じる場合があります。一方、骨髄炎でも、感染した骨を切除する手術を行った結果、大きな骨欠損が生じてしまう場合があります。このような大きな骨欠損に対しては、患者さんの骨盤から骨を採ってきて、欠損部に移植する自家骨移植術が通常行われます。しかし、採れる骨の量に限界があるため、量が足りなくなり治らないケースが少なくありませんでした。その場合、創外固定を長期間装着して行う骨延長術・骨移動術や、血管柄付き骨移植といって脚を大きく切開し、骨と血管を採りだして移植するといった大がかりで難易度の高い治療しかこれまでにはありませんでした。
RIA systemは、患者さんの健常な大腿骨の髄腔の内側から大量に骨を採取することを可能とした新しい手術器具です。欧米では2005年から使用が開始され、日本では2013年4月より使用が開始されました。この新しい手術器具を利用することで大量の移植用の骨を確保することが可能となり、大きな骨欠損における骨移植術の治療成績が飛躍的に改善されたことが報告されています。我々はこれまでに、大きな骨欠損を伴う難治性骨折や骨髄炎に対して、このシステムを数多く使用しており、良好な治療成績を収めています。また、次項で説明するMasquelet法(マスケレ法・マスカレ法)と併せて行うことも可能です。
● 3. Masquelet法(マスケレ法・マスカレ法):骨欠損に対する新しい骨再生療法
Masquelet法(マスケレ法・マスカレ法)はフランスの整形外科医Masquelet教授が2000年に報告した、骨欠損に対する画期的な骨再建法です。Masquelet法では、外傷や骨髄炎にて生じた骨欠損に対し、骨欠損部に骨セメントを詰めて、セメントの周囲に特殊な膜(induced membrane)を形成させ、4週間以上経過した後に詰めたセメントを除去し、形成された特殊な膜の内部に骨を移植することで、骨欠損部の骨が早く再生されるという方法です。優れた骨再生療法として近年、世界中で注目されており、日本でも2013年以降学会でその優れた治療成績が報告され始めている最新の治療法です。最大で20cmもの巨大骨欠損でも骨再生させることが可能であったとの報告もあります。我々もこのMasquelet法に着目し、これまでに外傷や骨髄炎にて生じた骨欠損の患者さんに対して本法を積極的に使用し、良好な成績を収めています。大きな骨欠損に対して治療する場合は、骨盤から自分の骨を採ってきても移植するにも量が不十分なことがあり、その場合には2.で挙げたRIA システムを併用したMasquelet法を行い、骨再生を成功させています。
担当医
骨折手術法に精通しており、髄内釘、プレート、スクリューなどを用いた内固定手術に加え、創外固定を用いた骨折の手術、偽関節手術、骨移植術などの特殊な手術も行っています。これまでに、骨折治癒を促進させるための基礎研究・臨床研究に長年携わってきました。
【経歴】
2000年:神戸大学医学部医学科卒業
2007年:神戸大学大学院医学研究科整形外科学修了 医学博士号取得
2006年~2008年:米国・UC Davis Medical Center整形外科 研究員
2010年~2017年:神戸大学医学部附属病院 整形外科 助教
2013年:ドイツ・フライブルグ大学附病院整形外科・外傷外科 (AO Trauma fellowshipにて)
2017年4月~2019年9月:昭和大学医学部整形外科学講座 講師
2019年10月~2021年3月:昭和大学横浜市北部病院整形外科 講師
2021年4月~:昭和大学江東豊洲病院整形外科 講師
【学会賞】
2019年:第20回ヨーロッパ整形外科学会(EFORT)にて「iPS細胞を用いた骨再生」の基礎研究で学会賞受賞(Jacques Duparc Awards)および「下肢骨折手術後の深部脈血栓症」に関する臨床研究でbest poster presentation賞受賞
2018年:第16回国際骨折治療学会(ORS ISFR 2018)にて「骨折に対する炭酸ガス療法」の臨床研究で学会賞受賞
2017年:第43回日本骨折治療学会にて「骨折に対する炭酸ガス療法」の臨床研究で学会賞受賞
2013年:第15回ヨーロッパ救急外傷外科学会にて「偽関節に対する自家末梢血CD34陽性細胞移植」の臨床研究で学会賞受賞
2013年:第39回日本骨折治療学会にて、「骨折に対する炭酸ガス療法」に関する基礎研究で学会賞受賞
2012年:第38回日本骨折治療学会にて「超音波骨折治療」に関する基礎研究で学会賞受賞
昭和大学江東豊洲病院・講師
李 相亮
神戸大学 2000年卒
【資格】整形外科一般、外傷、
難治骨折、骨粗鬆症
【資格】
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医学博士
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日本整形外科学会認定
整形外科専門医・指導医
スポーツ医
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日本骨粗鬆症学会認定医
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日本再生医療学会
再生医療認定医
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難病指定医
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身体障害者福祉法指定医師
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